アフタヌーンティーステイ宿泊記
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【体験記】帝国ホテル「ラ ブラスリー」の味は日本橋へ。高島屋「特別食堂」こそが、伝統を受け継ぐ隠れ家だった話

皿に盛り付けられた伊勢海老のテルミドール。黄金色のチーズソースがかかった伊勢海老の身と、付け合わせのマッシュポテト、ブロッコリー、茄子、トマト。
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「帝国ホテルの、あのコッテリとした伝統的なフレンチが食べたい」

「でも、本館のラ ブラスリーはもう閉店してしまったし……」

そんな伝統の帝国ホテルメニューロスに陥っている方に、朗報です。

自宅に届いたインペリアルクラブの会報誌に、ある一枚のチラシが入っていました。

日本橋高島屋S.C.特別食堂「帝国ホテル」の期間限定コースメニューのチラシ。インペリアルクラブ会員特典や、伊勢海老のテルミドールなどの伝統料理が掲載されている。
インペリアルクラブ会報誌に同封されていた「特別食堂」の案内。ここには、今の本館では見かけなくなった「昭和の傑作メニュー」が、当時の姿のまま生き残っていました。

日本橋高島屋「特別食堂」。

正直、頭の中は「?」だらけになりました。

「食堂」という名前の響きは、デパートの最上階にある、お子様ランチや食品サンプルが並んでいるあの場所を想像させます。

しかも、チラシには「帝国ホテル」「鰻の野田岩」「和食の大和屋三玄」という、本来なら一箇所に揃うはずのないレジェンド級の名前が並んでいるのです。

しかも9,680円!

速攻、予約をしました。

実は、昨年12月に母の誕生日会で、本館17階のインペリアルラウンジアクアで伝統のフルコースをいただいてきたばかりなのですが、ローテーブルで若干食べづらく…食堂の方がいいんじゃないか?と思った次第です。

今回も同伴者は母です。今回はお誕生日じゃないのでワリカンなんですが、ちょうど日本橋に用事があるから付き合ってくれるとのこと。

今回は、帝国ホテル特別食堂がどんな場所なのか、1万円以下で叶う極上のフルコース体験をレポートします。

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日本橋高島屋「特別食堂」の正体とは? 予約ルールと注文システムを解説

帝国ホテル・野田岩・大和屋三玄が「同居」する夢の空間

「特別食堂」の開設は1972年(昭和47年)。

社史「帝国ホテル百年史」(1990年)によると当時は日本橋高島屋新館4階にあり、その頃から既に「帝国ホテル」「鰻の野田岩」「和食の大和屋三玄」という、日本の食のレジェンドたちが手を取り合う唯一無二の形態だったようです。

当時の帝国ホテルは「ガルガンチュワ」の開店など、ホテル外への進出を積極的に行っていた時期。その戦略の一環として、この日本橋の地に「ホテルの外の、もう一つの帝国ホテル」が誕生したのです。

「食堂」という親しみやすい名前とは裏腹に、日本橋高島屋の本館8階に到着すると、そこにはまるで老舗ホテルのロビーのような重厚な空間が広がっていました。

日本橋高島屋特別食堂の入り口。壁面には「帝国ホテル」「大和屋三玄」「五代目 野田岩」の3つの店舗名が刻まれており、重厚なロビーの雰囲気が漂う。
入り口に掲げられた3つの金看板。「食堂」という名前に油断して訪れると、この重厚な店構えに背筋が伸びます。

「そういえば、お父さんも昔はお仕事の会食やお友達との集まりで、よくここを使っていたみたい」

……なんてことでしょう。 私が「特別食堂って何?」と頭を捻らせていた裏で、父はここを洗練された「大人の社交場」としてとっくの昔に使いこなしていたのです。

しかも母いわく、父がここで頼むのは決まって「五代目 野田岩」の鰻なのだとか。

「お父さんたちはここで美味しいものを食べて、私はいつもお留守番だったけれど。今日はようやく、二人で来られたわね!」

そう言って目を輝かせる母。実は母も、私と同じくここへ足を踏み入れるのは初めてだったみたいです。

この場所の真の価値は、この「わがままな共存」にあります。

本来なら、フレンチの気分と鰻の気分がぶつかれば、どちらかが妥協しなければなりませんが、「特別食堂」なら「一人は鰻、もう一人は帝国ホテルのフレンチ」を、同じテーブルで囲むことができてしまうのです!

【要注意】ランチ予約は不可! 狙い目は「15時」

ここに行く前に絶対に知っておきたい、特別食堂の「予約ルール」です。

スタッフの方に確認したところ、「お席の予約ができるのは、平日・土日祝問わず『15時以降』のみ」とのこと。

つまり、ランチタイム(11:00〜)は完全な「来店順」です。

ランチタイム狙いなら発券機で整理券を取ってデパート内で買い物をして待つ必要があります。

私は、混雑を避けて夕方前の15時の時間帯を予約しました。

この時間帯なら、ゆったりとした空間で優雅な時間を過ごすことが出来ます。

特別食堂の雰囲気は? デパートの中にあるもう一つの帝国ホテル

デパートのレストラン街といえば、買い物客の活気で賑わっているイメージがありますが、ここは別世界です。

日本橋高島屋特別食堂の広々とした店内。赤い絨毯が敷き詰められ、太い白い柱が天井を支えている。白いクロスが掛かったテーブルは間隔を広く取って配置されており、格式高いホテルのメインダイニングのような雰囲気。
ふかふかの絨毯が足音を消し、隣の席との贅沢な距離が会話を守ってくれます。

一歩足を踏み入れると、そこにあるのは「昭和のクラシックホテル」そのもの。BGMも控えめで、カトラリーが触れ合う微かな音と、抑えられた話し声だけが響きます。

正直に言うと、ここは現在の本館よりも「帝国ホテルらしい」空間かもしれません。私たちが「帝国ホテル」という言葉に抱く、あの少し背筋が伸びるような、そして温かみのあるクラシックなDNAが、純度高く保存されている気がしました。

テーブルセッティングの様子。スエード調の重厚なメニューブックの横には、洋食用の白いナプキンと、日本茶(煎茶)の湯呑みが並んでいる。和洋が混在する独特のスタイル。
席に着くと広がる不思議な光景。
「フレンチのナプキン」の横に、当たり前のように置かれた「熱い煎茶」。

この肩肘張らない和洋折衷の空気こそが、父たちをリラックスさせ、長居させてしまう一番の理由なのかもしれません。

特典のワンドリンクで「特別感」を演出

席に着き、まず私たちが手にしたのは、インペリアルクラブの会報誌に同封されていたあの「優待券」。

スタッフの方に提示された選択肢はグラスワインなどかなり豪華です。

帝国ホテルのレストランでグラスワインを頼めば、それだけで千円、二千円はくだらない世界。それが無料で付いてくるのですから、この特典の価値は計り知れません。「自分なら迷わずワイン!」と思った読者の方、正解です。それが一番このチケットのポテンシャルを引き出せます。

しかし、あいにく私たちは下戸なので、ノンアルコールに。選択肢は一気にシンプルになりました。

ジュース(オレンジ、りんご)

日本橋高島屋特別食堂で提供されるインペリアルクラブ会員特典のワンドリンク。帝国ホテルのロゴ入りコースターに乗ったオレンジジュースとりんごジュース。
選択肢はシンプルに「オレンジ」か「りんご」。しかし、グラスの下には誇らしげなインペリアルホテルのロゴが。これだけで、デパートの食堂が一気にホテルのラウンジに変わります。

この潔さもまた、クラシックな「食堂」らしいと言えるかもしれません。

「ワインが飲めたらお得なんだけどなぁ……」と、心の中で少しだけ貧乏性を発動させながら、オレンジとりんごを注文。

しかし、運ばれてきたグラスを見て、そんな邪念は消え去りました。

帝国ホテルのライオンロゴが入った紙コースターに乗せられた、オレンジジュースとりんごジュースの下に敷いてあった。
舵輪ライオンロゴ一つで、デパートの中が帝国ホテルのラウンジに。もちろん持ち帰りました。

グラスの下には、しっかりと「IMPERIAL HOTEL」のロゴが入ったコースター。

ただのオレンジジュースでも、このライオンの紋章の上に置かれるだけで、それはデパートの休憩ではなく「ホテルのラウンジ体験」に変わります。

日本橋高島屋「特別食堂」帝国ホテルのコースメニュー

今回私たちがいただいたのは、期間限定のプリフィックスコースです。 伝統の味を自分で組み合わせられる、贅沢なラインナップをご紹介します。

【期間限定】あなたが創る 帝国ホテルのコースメニュー 価格:9,680円(税込・サービス料込)

※前菜・スープ・メイン・デザートより、お好みのものを一品ずつ選びます。

■ 前菜(おひとつ選択)

  • シーザーサラダ
  • 美食家のサラダ
  • 紅ズワイガニのポテトサラダ(+900円)

■ スープ(おひとつ選択)

  • ダブルビーフコンソメスープ
  • オニオングラタンスープ

■ メイン(おひとつ選択)

  • シャリアピンステーキ
  • 仔牛のカツレツ
  • 伊勢海老のテルミドール(+2,100円)

■ デザート(おひとつ選択)

  • チェリージュビリー
  • インペリアルババロア

■ お飲み物

  • コーヒーまたは紅茶(※お代わり自由)

「アラカルトで頼むと一品だけで数千円する伝統料理を、こうしてコース仕立てで自由に組み合わせられるのが、このプランの最大の魅力です。

失敗しないための「帝国ホテル流」コースの組み立て方

メニューを広げると、魅力的な料理が並んでいて目移りしてしまいます。 しかし、ここで闇雲に選んではいけません。

帝国ホテルのレジェンド、第11代総料理長の村上信夫氏は、著書『求味ゼミナール』(1989年東京書籍)の中で、コース選びの極意をこう説いています。

「コースメニューはアントレ(主菜)から決めるのが正解」

前菜から順番に選んでいくと、最後に本当に食べたかったメインディッシュとのバランスが崩れたり、惰性で選んでしまったりしがちです。まずは「今日の一番の目的」をビシッと決める。そこから逆算して、物語を組み立てるのが帝国ホテル流です。

今回の特別食堂のラインナップから、アントレをどう攻略すべきか。私なりの「逆算のセオリー」をまとめました。

シャリアピンステーキなら:前菜は「美食家のサラダ」で華やかに。

  • お肉が玉ねぎの酵素でさっぱり頂けるので、前菜はいろいろな味が楽しめる「美食家のサラダ」を選んで、コース全体にボリューム感を出しても最後まで美味しく完走できます。

仔牛のカツレツなら:スープは「ダブルコンソメ」で胃を整えて。

  • 皿を覆う圧倒的ボリュームを攻略するため、スープは不純物ゼロの「コンソメ」で喉越しを軽く。サラダもポテトサラダは避け、葉物中心の「美食家」で胃のスペースを確保するのが正解です。

伊勢海老のテルミドールなら:前菜は「美食家のサラダ」でソースと喧嘩させない。

  • メインのソースが非常に濃厚なので、前菜に「ポテトサラダ」を重ねると少し重たくなります。素材をそのまま味わう「ニース風サラダ」「美食家サラダ」の塩気や酸味を挟むことで、テルミドールのリッチなコクがより引き立ちます。

いざ実食。1万円以下で叶う、伝統のコース料理

【前菜】対照的な二つのサラダ

同じコースでありながら、全く異なる表情を見せてくれるプリフィックス。

実はここだけの話、メインディッシュ選びでちょっとした「親子の攻防」がありました。

「私は絶対に、期間限定の伊勢海老のテルミドールが食べたい!」 そう主張する私に、母が譲ってくれたのです。

「じゃあ、私は仔牛のカツレツにしてあげる。その代わり……前菜で甲殻類を補給させてもらうから」

そうして母が選んだのは、追加料金のかかる「紅ズワイガニ」。

私はスタンダードな「美食家のサラダ」。

日本橋高島屋特別食堂の前菜「美食家のサラダ」。サーモンのバラ飾り、パテ・ド・カンパーニュ、生ハム、モッツァレラチーズなどの高級食材が、グリーンサラダを囲むように盛り付けられた一皿。
美食家のサラダ(全体像)サーモンのバラ、パテ・ド・カンパーニュ、生ハム、モッツァレラが共演する贅沢な一皿

運ばれてきた瞬間、「美食家のサラダ」という意味が分かりました。

中央のリーフを囲むように、脂の乗ったサーモン(美しくバラのように巻かれています)、濃厚なパテ、塩気の効いた生ハム、そしてモッツァレラチーズが鎮座しています。

ドレッシングが「必要最小限」であること。

野菜を食べるためのサラダではなく、周囲の「美食」たちを味わうための一皿。それぞれの素材が持つ塩味や旨味だけで、ワイン(私の場合はジュースですが)が止まらなくなる設計です。

母がオーダーしたのは+900円の価値がある。「紅ズワイガニのポテトサラダ」

特別食堂の追加メニュー「紅ズワイガニのポテトサラダ」。中央のミモザ風ポテトサラダを囲むように、紅ズワイガニの身とハーブが花輪(リース)状に美しく配置されている。
紅ズワイガニのポテトサラダ(全体像)まるで花冠のような盛り付け。

中央に鎮座するのは、じゃがいものゴロゴロ感を残したポテトサラダ。上にはミモザのように細かく刻まれた黄身が散らされており、ドレッシングの酸味とコクがしっかりと効いています。

そして、その周りを華やかに囲むのが、主役の紅ズワイガニとハーブのリーフ。

紅ズワイガニのポテトサラダの蟹の身をフォークで持ち上げている接写。繊維がしっかりした肉厚な蟹肉とドレッシングが絡み合い、プラス900円の価値があることを証明している。
蟹のリフトアップ

一口もらいましたが、蟹の甘みとポテトのホクホク感、そしてドレッシングの酸味が一体となり満足感がありました。帝国ホテルのポテサラってこのドレッシングの使い方がいい!

もし「甲殻類が食べたいけれど、メインは肉がいい」という方は、迷わずこの+900円を課金すべしです。

【スープ】伝統を飲み比べる。コンソメ vs オニオン

メインディッシュだけでなく、スープ選びでも私たちの好みは綺麗に分かれました。

帝国ホテル伝統のオニオングラタンスープ。たっぷりのグリュイエールチーズがこんがりと狐色に焦げ目がつき、熱々の状態でココット皿に入れられている。母が「人生で一番美味しい」と絶賛した濃厚なスープ。
帝国ホテル伝統のオニオングラタンスープ。

母が迷わず選んだのは、大好物の「オニオングラタンスープ」。 運ばれてきた瞬間、香ばしいチーズと甘い玉ねぎの香りがテーブルを包みます。

一口飲んだ母が、目を丸くして言いました。 「今までいろんな場所で食べてきたけれど、これが一番美味しい!」

飴色になるまで炒められた玉ねぎの甘みと、コンソメのコク、そしてとろけたグリュイエールチーズの塩気。それらが一体となった濃厚な味わいは、まさに「飲むメインディッシュ」と言える満足感だったそうです。

対して私が選んだのは、帝国ホテルの代名詞「ダブルビーフコンソメスープ」。 実は私にとって、これは単なるスープ以上の意味を持つ「薬膳」のような存在です。

美しい琥珀色に澄んだダブルビーフコンソメスープのカップと、その横に添えられた温かいロールパンとブリオッシュ。夏バテした体に染み渡った、私にとっての「命のスープ」。
美しい琥珀色に澄んだダブルビーフコンソメスープ

以前、ひどい夏バテで食欲が完全に消え失せた時、このコンソメをテイクアウトしたことがあります。 何も受け付けなかった胃に、このスープだけはスッと染み渡りました。

「ダブル」の名が示す通り、通常の倍の肉と野菜を使って抽出されたこの琥珀色の液体。 具材も浮き実もなく、見た目はシンプルそのもの。しかし、口に含むと驚くほど複雑で、力強い旨味が広がります。

銀のスプーンですくい上げられたダブルビーフコンソメスープのクローズアップ写真。一切の濁りや不純物がない完璧な透明度と、深く輝く琥珀色が、帝国ホテルの卓越した技術を物語っている。
コンソメのリフトアップ

「余計なものは一切ないのに、すべてが詰まっている」 まさに帝国ホテルの135年の歴史を凝縮したような、尊い一杯でした。

【メイン】期間限定の「憧れ」か、伝統の「満腹」か。

いよいよメインディッシュの登場です。

期間限定メニューの伊勢海老のテルミドール。真っ赤な殻の上に、濃厚なホワイトソースとチーズが黄金色に焼き上げられており、ブロッコリーやマッシュポテトなどのガルニチュールが添えられている。
「伊勢海老のテルミドール」(追加料金+2,100円)かつて披露宴の定番だった「ご馳走」。

私が選んだのは、今回の目玉であり、どうしても食べたかった「伊勢海老のテルミドール」。 かつて帝国ホテルのメニューに載っていた伝説の一皿が、期間限定で復活しているのです。追加料金がかかっても、これを選ばない理由はありません。

スプーンを入れると、殻の中に詰められた身と、濃厚なベシャメルソースが絡み合って持ち上がります。

スプーンですくい上げた伊勢海老のテルミドール。濃厚なベシャメルソースが絡んだプリプリの海老の身は、黄金色の焼き目がついており、食欲をそそる。
テルミドールのリフトアップ

口に入れると、海老の凝縮された旨味がソース全体に染み渡っており、焦げたチーズの香ばしさが鼻に抜けます。「これぞクラシックフレンチ!」と叫びたくなる濃厚さです。

ただ、正直に告白すると 「思ったよりも、食べるところが少ない……!」

殻付きの豪華な見た目に反して、可食部は非常に上品な量です。追加料金+2,100円、あっという間に夢の時間は終わりを告げました。

一方、母が選んだのは、閉店した本館の「ラ ブラスリー」でも不動の人気を誇っていた「仔牛のカツレツ」。

運ばれてきた瞬間、その「面積」に圧倒されました。私のテルミドールの倍はあろうかという巨大な物体が鎮座しています。

日本橋高島屋特別食堂のメインディッシュ。手前には皿からはみ出しそうな巨大な仔牛のカツレツ、奥には上品な伊勢海老のテルミドールが並び、そのボリュームの差が際立っている。

「こんなに食べられるの?」配膳された瞬間二人で戦きましたが、心配無用でした。

お肉は叩いて薄く伸ばされており、衣はあくまでサクサクと軽く、香ばしい。そこに、帝国ホテル自慢のデミグラスソースがたっぷりと敷かれています。

ナイフを入れた仔牛のカツレツの断面。薄く叩いて伸ばされた柔らかい仔牛の肉と、香ばしく揚げられた薄い衣、そしてたっぷり敷かれたデミグラスソースの層が確認できる。
仔牛のカツレツ(断面)

決して「重い」わけではなく、ただひたすらに「旨い」。

カリッとした衣とジューシーな肉、そしてソースの酸味とコク。この「食べ応え満点」の満足感は、正直少し羨ましくなるほどでした。

結論:

  • 優雅に「季節の希少性」を味わうならテルミドール。
  • お腹いっぱい「帝国の実力」を食らうならカツレツ。

【デザート】帝国ホテルの歴史を刻む2種類のデザート

食事の締めくくりとなるデザートタイム。

デザートもワゴンに乗せてうやうやしく運ばれてきます。

ふと隣のテーブルを見ると、チョコレートサンデーが目の前で仕上げられていました。そのライブ感あふれる光景に、思わず「あっちも美味しそう……」と目移りしてしまったほどです。

母が選んだのは、前回いただいてすっかりお気に入りになった「チェリージュビリー」。

温かいチェリーソースをアイスクリームにかけた「チェリージュビリー」。ガラスの器に盛られ、濃厚なダークチェリーのソースがバニラアイスにとろりと絡んでいる様子。
チェリージュビリー

冷たいバニラアイスクリームの上から、熱々のダークチェリーソースを目の前でとろりとかけて仕上げてくださいます。

本館のフルコースでいただいた時と比べると、アイスの量は少し小ぶりなサイズ感。 しかし、フルコースを食べきった後の胃には、このサイズが絶妙です。温かさと冷たさが口の中で溶け合う贅沢は、何度食べても色褪せません。

私が選んだのは、帝国ホテルの伝説・初代総料理長の村上信夫シェフが考案した「インペリアルババロア」。 メニューに「期間限定」とあれば、歴史ファンとして選ばないわけにはいきません。

故・村上信夫初代総料理長が考案した「インペリアルババロア」。白いババロアの中に刻んだアプリコットが見え、バニラアイスとフルーツ(苺、キウイ、オレンジ)、チョコレートが添えられた伝統的な盛り付け。
インペリアルババロア

スプーンを入れると、プルンとした弾力の後に、中から刻まれたアプリコットが顔を覗かせます。一口食べた瞬間、「あ、昔の洋菓子だ」と思うような、飾り気のない卵とミルクの優しい味。

正直に言うと、最初ちょっとシンプルすぎると思いました。

コンビニスイーツでさえ複雑で濃厚な味が当たり前の現代において、このババロアは驚くほど素朴です。

しかし、食べ進めるうちに、ふとある考えが頭をよぎりました。

それは、ちょうど先日鑑賞してきた現代美術家ソル・ルウィットのアート。その展覧会で知った、「概念こそが芸術である」という考え方です。

彼は、たとえ作家本人が亡き後でも、残された「指示書」さえあれば、別の誰かの手によって作品を永遠に復元できることを証明しました。このババロアも、まさにそれと同じだと。

村上シェフという偉大な作家が遺した「レシピ」という名の指示書を、今のシェフたちが時を超えて再現している。

私たちが今ここで食べているのは、「レシピによって守り抜かれた帝国ホテルの歴史そのものの復元」なのです。

そう思うと、この混じり気のない素朴な甘さが、どんな最新の映えスイーツよりも、尊いものに感じられました。

【食後のドリンク】紅茶とコーヒーはおかわり自由

コースの締めくくりは、コーヒーまたは紅茶(ホット・アイス)から選べます。 嬉しいことに、これらはおかわり自由です。

食後のホットティーとアイスティー。帝国ホテルの紋章が入った金縁のティーカップと、涼しげなアイスティーのグラスが並び、レモンスライスが添えられている。おかわり自由で提供される。
食後のホットティーとアイスティー。

カップやグラスが空くと、すぐにスタッフの方が「おかわりはいかがですか?」と声をかけてくださいます。呼び止める必要がないほど対応が早く、この目配りの細やかさはさすが帝国ホテル。

私たちはホットティーとアイスティーをお願いしました。 時間を気にせず、最後まで優雅な余韻に浸れるのも、この特別食堂の大きな魅力です。

スタッフが語る、名店「ラ ブラスリー」の魂のゆくえ

メインディッシュの余韻に浸っていると、絶妙なタイミングでスタッフの方が声をかけてくださいました。

「お食事、お楽しみいただけておりますでしょうか?」

お話を伺うと、なんとこの方、本館の「パークサイドダイナー」で8年も勤務されていたというベテラン。帝国ホテルの裏も表も知り尽くした、まさに事情通です。

私が「今日は、どうしてもこのテルミドールが食べたくて来たんです!」と伝えると、彼は私がラブラスリーファンと思ったらしくこう教えてくれました。

「実は、本館の『ラ ブラスリー』が閉店して以来、伝統の味を求めて、こちらの特別食堂へいらっしゃる常連様がとても増えているんです」

なるほど。 私が「特別食堂とは何か?」を探っている間に、往年のファンたちはとっくにここを「ラ ブラスリーの正統な後継地」として見出し、避難場所にしていたのです。

さらに、貴重な情報も教えていただけました。

  • 「シャリアピンステーキ」と「仔牛のカツレツ」
    • これらは特別食堂で通年提供しているレギュラーメニュー。つまり、いつでもあの味に会えます。
  • 「伊勢海老のテルミドール」
    • こちらは本当に今回限りの期間限定での復活だったとのこと。

しかし、こうも考えられます。 「テルミドール」が復活したと言うことは、ファンの声さえ届けば、他のブラスリーの人気メニューも、ここ日本橋で復活する可能性があるのではないでしょうか?

『パークサイドダイナー』で食べた時の記事はこちら。値段や雰囲気の違いを比較したい方はぜひ。」

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【総評】ここは帝国ホテルにおける「セレンディピティ」の証。伝統の味に出会える場所

1972年、帝国ホテルが「外部進出」という新たな挑戦として日本橋に種をまいた「特別食堂」。

50年以上の時を経て、まさかここが、閉店した「ラ ブラスリー」の伝統メニューを継承し、古くからのファンの聖域になっているとは、当時の関係者も予想していなかったかもしれません。

そして、偽らざる感想を言わせてください。 ここは、ある意味で「現在の帝国ホテルよりも、帝国ホテルらしい」場所でした。

日本橋高島屋のクラシカルな建築と、外界から遮断された静寂。 そこに、制服に身を包んだスタッフの方々の上品で温かい挨拶、ワゴンでの優雅なサービス、そしてグラスが空く前にスッと注がれる阿吽の呼吸が重なります。 そこには、時計の針が巻き戻ったような、古き良き時代の「おもてなしの原型」が息づいていました。

「ラ ブラスリーなき後、常連様がこちらへ流れてきている」 スタッフの方が教えてくれたこの事実は、私にとって最大の発見でした。

帝国ホテルは今新しいことに果敢にチャレンジしていますが、やはり伝統のメニューが求められているんだと。

帝国ホテルの歴史を振り返ると、狙ってやったわけではないけれど、結果的に良い方向へ転がったという事例がいくつもあります。

かつて第13代社長の小林哲也氏が、脳科学者の茂木健一郎氏の言葉を借りて「セレンディピティ(素敵な偶然に出会うこと)」をキーワードに、「伝統は、次をひらめく」というスローガンを掲げたことがありました(2009年)。

長い歴史の中で、予期せぬ出来事が幸運にも不運にも転びうることを身に沁みて知っている帝国ホテルだからこそ、この「偶然を味方につける力」を経験知として持っているのかもしれません。

今回の特別食堂も、まさにそれではないでしょうか。

高度経済成長期に「デパートへの出店」として放たれた一本の矢が、50年という時空を超えて、ラ ブラスリーを失った現代の私たちの胸に、救いのように深く刺さった。

そんな歴史の悪戯と奇跡に感謝しながら、私はまた、チョコレートサンデー目当てにこの赤い絨毯を踏みたいと思いました。

特別食堂で感動したなら、次はぜひ日比谷の本館へ。朝食の『パンケーキ』や『フレンチトースト』もまた、伝説の味です!

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ミス・レモン
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ホテルグルメウォッチャー
東京で働く会社員です。 趣味はホテルでの食事と、ホテル業界の動向をウォッチすること。
最近のホテル業界はまるで群雄割拠の戦国時代。次々と現れる新しいニュースから目が離せません。
このブログでは、単にお料理の美味しさを紹介するだけでなく、ホテルグルメの最前線を個人の視点で観察していきます。
「ごほうびホテルグルメ」で、あなただけの特別なひとときを見つけてくださいね。
姉妹サイト「ティールーム青い鳥」ではホテルアフタヌーンティーもご紹介しています。
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